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改正民法 ~賃貸借の改正ポイント~

Q 当社は、不動産賃貸に関連するITサービス事業を目的とするベンチャー企業です。
この度の民法改正で、不動産賃貸借に関する改正ポイントを教えてください。

A 賃貸借に関する改正事項の多くは、不動産賃貸借に関して形成されてきた判例法理や従来の一般的な理解を明文化するものとなります。

加えて、現代的な不動産取引に対応するため、賃貸借の存続期間の上限の伸長や、賃貸不動産の譲渡に伴い賃貸人たる地位が譲渡人に留保される旨の規定の新設といった、実質的な改正もなされています。

また、賃貸借の規定自体の問題ではありませんが、保証人保護の観点から保証に関する規律が新法で大幅に拡充されており、賃貸借に伴う保証についても、そうした規律に服することになることに留意する必要があります。

以下、詳しく解説していきます。

概要

新法では、賃貸借の規定が全般的に改正されています。

もっとも、改正事項の多くは、不動産賃貸借に関して形成されてきた判例法理や従来の一般的な理解を明文化するものとなります。

加えて、現代的な不動産取引に対応するため、賃貸借の存続期間の上限の伸長や、賃貸不動産の譲渡に伴い賃貸人たる地位が譲渡人に留保される旨の規定の新設といった、実質的な改正もなされています。

また、賃貸借の規定自体の問題ではありませんが、保証人保護の観点から保証に関する規律が新法で大幅に拡充されており、賃貸借に伴う保証についても、そうした規律に服することになることに留意する必要があります。

なお、今回の改正では、借地借家法について、実質的な改正はありません。

賃貸人・賃借人間の関係

目的物返還債務の明文化

旧法では、当事者の一方が目的物を使用収益をさせること及びその相手方が賃料を支払うことを約すことのみが規定されているに過ぎませんでした。

しかし、賃貸借終了後において目的物を返還することは、賃貸借契約を構成する要素であると考えられることから、目的物の返還約束についても賃貸借契約締結時の合意内容として明記されました(新法第601条)。

賃貸借の存続期間の上限

旧法第604条は、賃貸借の存続期間の上限を20年と定めており、当事者の合意があってもそれより長い期間の賃貸借をすることができないとしていました。

これは、存続期間が長期である賃貸借を一般的に認めてしまうと賃貸物の損傷や劣化が顧みられない状況が生じ、国民経済上の問題があるとの趣旨に基づくものです。

しかし、現代社会においては、例えば、ゴルフ場の敷地に利用するための土地の賃貸借や太陽光パネルを設置するための土地の賃貸借などのように、存続期間を20年以上とする現実的なニーズがあるにもかかわらず、この規定が障害となって、存続期間を20年とする賃貸借契約を締結せざるを得ず、20年の経過後に改めて再契約をするという不安定な契約実務を強いられているとの指摘がありました。

そこで、新法においては、物権である永小作権の存続期間の上限が50年と定められていること(民法第278条第1項)との均衡等も考慮し、賃貸借の存続期間の上限を50年に伸長しています(新法第604条)

賃貸物(賃借物)の修繕

賃貸物の修繕義務に関し、新法では、賃貸人の修繕義務に関する旧法606条1項の規律を原則として維持しつつ、公平性の観点から、賃借人の帰責事由により賃貸物の修繕が必要となった場合には賃貸人はその修繕義務を負わないと規定されました(新法606条1項)

また、賃借物の修繕権限に関し、旧法には、どのような場合に賃借人に修繕権限が認められるかを定める明文の規定がありませんでした。

新法では、賃借物の修繕が必要である場合に、 ①賃借人が賃貸人にその旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当期間内に必要な修繕をしないときや、 ②急迫の事情があるときに、 賃借人に修繕の権限があると規定されました(新法607条の2)

賃借物の所有者である賃貸人と、賃借人との利害調整を図る趣旨です。

賃借物の一部滅失

旧法は、賃借物の一部が滅失した場合に賃借人に賃料減額請求を認めていましたが(旧法第611条第1項)、賃借人において賃借物の十分な使用収益ができなくなるのは、賃借物の一部滅失の場面に限られず、より広く使用収益をすることができない場合一般に賃料の減額を認めるのが合理的であり、一般にそのように解されていました。

また、旧法の下では、使用収益が一部不能になっても、賃借人が請求しなければ賃料は減額されませんでしたが、賃料は賃借人が目的物を使用収益することができることの対価であるから、使用収益ができない以上は当然に賃料が減額されるものとするのが合理的です。

そこで、新法では、 ①賃料が減額される場面の表現を、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」と改め、 ②賃借物の一部が使用収益をすることができなくなった場合には、 賃料は、当然に減額されるものとしています(新法第611条第1項)。

また、 契約の解除に関し、新法では、滅失などにより賃借物の一部の使用収益が不能となった場合で、残存する部分だけでは賃借人が賃借をした目的を達成することができないときは、賃借人は賃貸借契約を解除できることになりました(新法611条2項)。

従来、契約を解除するためには賃借人に帰責事由がないことが必要とされていました(旧法611条2項)が、今回の改正により賃借人の帰責事由の有無を問わないことになりました。

賃借人の帰責事由があった場合の取扱いについては、債務不履行の一般原則によることになります。

原状回復義務

旧法には、賃借人の原状回復義務を直接定める規定がありませんでした。

新法では、賃借人が賃借物を受け取った後でこれに生じた「損傷」がある場合に、賃貸借が終了したときは、賃借人がその「損傷」を回復する義務を負うと規定され(新法621条)、賃借人による原状回復義務が明文化されました。

さらに同条では、判例法理(最判平17・12・16判時1921号61頁)や従来の一般的な理解(国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)参照)を踏まえ、賃借物の通常損耗や経年変化については、原状回復義務の対象である「損傷」に該当しない(したがって、賃借人による原状回復義務の対象とならない)旨が明確化されるとともに、その「損傷」が賃借人の帰責事由によらないときは、賃借人による原状回復義務の対象とならないとされました。

収去義務

旧法の下でも、明文の規定はありませんでしたが、賃借人が賃借物を受け取った後に賃借物に附属させた物について、賃貸借が終了したときには、賃借人が収去義務を負うと一般に解されていました。

そこで、新法においては、その旨を明文化しています(新法第622条において準用する新法第599条第1項本文)。

ただし、附属物を分離することができない場合や附属物の分離に過分の費用を要する場合は、履行不能の典型的なものであるため、これらの場合においては賃貸人が収去義務の履行を請求することができないことを明示しています(新法第622条において準用する新法第599条第1項ただし書)。

賃貸人たる地位の移転

不動産の賃貸人たる地位の移転(対抗要件が具備されている場合)

旧法には、不動産の賃貸人たる地位の移転について直接定める規定がありませんでした。

新法では、判例法理(大判大10・5・30民録27輯1013頁、最判昭39・8・28民集18巻7号1354頁など)や従来の一般的な理解を踏まえ、賃貸借に対抗要件が備わっている場合に賃貸不動産が譲渡されたときは、賃借人の承諾や譲渡人・譲受人間の合意を要することなく、賃貸人たる地位が賃貸不動産の譲受人に当然に移転する旨が明文化されました(新法605条の2第1項)。

不動産の賃貸人たる地位の留保

上記1の規律の例外として、賃貸不動産の譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転することなく譲渡人に留保される旨の規定(新法605条の2第2項前段)が新設されました。

資産の流動化等を目的とする賃貸不動産の譲渡取引がなされる場合に、不動産の譲渡後も譲渡人が引き続き賃貸人の地位にとどまることについて実務上の要請(典型的には、譲受人と多数の賃借人との間で直接的な賃貸借関係が生じることを避けたいというもの)があります。

そうした要請を実現するために、旧法下では、賃貸人たる地位が当然に移転するという判例法理を前提として個別に賃貸人たる地位を留保することについての賃借人の承諾を取得しており、そのために煩雑な対応が必要となっていたが、新法で導入される新たな規律により、個別に賃借人の承諾を取得する必要がなくなります。

今後、実務での活用が期待されます。

不動産の賃貸人たる地位の移転(合意による場合)

旧法には、賃貸不動産の譲渡に伴う、賃貸人である譲渡人と譲受人との合意による賃貸人たる地位の移転について定める規定がありませんでした。

新法では、判例法理(最判昭46・4・23民集25巻3号388頁)や従来の一般的な理解を踏まえ、賃貸不動産が譲渡された場合に、譲渡人と譲受人が合意することにより、賃借人の承諾を要することなく賃貸人たる地位を譲渡人から譲受人に移転することができる旨が明文化されました(新法605条の3前段)。

敷金に関する規定の新設

敷金の定義

旧法には、敷金の定義や敷金に関する基本的な法律関係を定める規定がありませんでした。

新法では、判例法理(大判大15・7・12民集5巻616頁など)や従来の一般的な理解を踏まえ、敷金とは「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」であると定義されました(新法622条の2第1項柱書)。

この定義に該当する限り、例えば「保証金」や「権利金」の名目で賃借人から賃貸人に交付される金銭であっても、民法上の敷金に関する規定が適用されることになります。

実務では「礼金」「権利金」「建設協力金」といった名目で賃借人から賃貸人に金銭が交付されることがありますが、こうした金銭について民法上の敷金に関する規定が適用されるかどうかは、この定義に該当するかどうか(担保目的の存否)で決定されることになります。

なお、敷金に関する規定は、その適用対象が不動産の賃貸借に限定されていません。

敷金返還債務の発生時期

敷金返還債務の発生時期については、判例(最判昭和48年2月2日)に従い、賃貸借が終了して賃借物が返還されたときに敷金返還債務が生ずるとし(賃借物の返還が先履行であり、敷金の返還と同時履行関係にはたちません。)、また、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときも、その時点で敷金返還債務が生ずるとしています(新法第622条の2第1項)。

さらに、返還すべき敷金の額についても、判例(最判昭和48年2月2日、最判昭和53年12月22日)に従い、受け取った敷金の額からそれまでに賃貸借に基づいて生じた金銭債務の額を控除した残額としています(新法第622条の2第1項柱書き)。

敷金による優先弁済

賃借人が目的物を返還した後、賃貸人は、賃借人に対し、「その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」について返還債務を負担することになります(新法622条の2第1項柱書)。

つまり、賃貸借の終了後、賃貸人は、相殺その他の意思表示をすることなく、賃借人の他の債権者に優先して、賃貸借に基づく賃借人に対する金銭債権の弁済を当然に受けることが可能となります。

これに加え、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しない場合、賃貸人は、その意思表示により敷金をその債務の弁済に充てることができます(新法622条の2第2項前段)。

他方、賃借人は、賃貸人に対する未払いの金銭債務があるとしても、賃貸人に対して、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができません(同項後段)。

従来の一般的な理解を踏まえ、敷金の担保としての性格を反映する趣旨です。

賃貸人の賃借人に対する意思表示により敷金を賃借人の債務の弁済に充てた場合に、賃借人が賃貸人に対して追加で敷金を差し入れる義務を負うかどうかは当事者間の合意次第になります。

その他

転貸に関する規律

転貸借がなされた場合の効果について、旧法では、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負うとのみ規定しているに過ぎませんでしたが(法第613・条第1項)、転借人の義務の範囲は原賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を超えないものと解されていました。

そこで、新法では、このような一般的な解釈を踏まえ、転惜人の義務が原賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度とするものであることが改めて明文化されました(新法第613条第1項前段)。

また、賃貸惜の合意解除を転借人に対抗することの可否は、従来から解釈上の論点となっていました。

この点について、判例を踏まえ、原則的に合意解除をもって転貸人に対抗することはできないものの、当該合意解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行を理由とする解除権を有していた場合には例外的に合意解除をもって対抗することができるものとされました(新法第613条第3項)。

不動産の賃借人による妨害停止請求権等

旧法には、不動産賃借権に基づく妨害停止請求権や返還請求権について明文の規定がありませんでした。

不動産賃借権につき対抗要件を備えている場合には、賃借人は、当該不動産の占有を妨害する第三者又は占有する第三者に対して、それぞれ妨害排除請求又は返還請求をなし得るとするのが従来から判例の立場であったところ、新法では、かかる判例の準則が明文化されました(新法605条の4)。

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